「簡易ユガケの必要性と製作」
 
                               (2008年度弓道論ゼミ卒業研究抄録)
 
 
 
                国際武道大学体育学部武道学科: 天野 量太
                           指導担当教員: 松尾 牧則
 
 
 
【1】簡易ユガケの必要性
学校の部活動、授業、また弓道会に入ったばかりの初心者などの指導において、普通のユガケでは不便な点が多くある。ユガケの扱い、離れの感覚をつかませにくく、安価なユガケでも1万〜1万5千円程度と高価なことなどが上げられる。こういった初心者指導に不便な点を解決するために簡易ユガケが必要だと考える。
簡易ユガケは身近な物で簡単に作れ、経済的な負担が少ないことが求められる。また部活動や授業などでは、自分で簡易ユガケを作る楽しみを持たせることもできる。
初心者のうちは、ユガケの扱いや弓に慣れさせる必要がある。そこで簡易ユガケを使い、弓の引き方、離れの感覚などをしっかりと覚えさせ、それから普通のユガケに変更してゆくのが良いと考える。また簡易ユガケは初心者だけではなく、不調の際の離れの感覚や、弓を引く際の力の受け具合や張り具合などの確認のための活用も可能性がある。一般の人達に弓道をより簡易に楽しんでもらうためのアイテムとしても活用できるのではないかと考える。
 
 
【2】簡易ユガケの製作にあたり
製作にあたり、「安く簡単に、尚且つ実用的」ということを考えて製作する。初心者のために、身近な物を使って簡単に作れるものと、少し上達した者のために、少し手の込んだ物とを2種類を製作する。材料として用意する物は、特殊な物ではなく日用的に使用している物を使うこととする。
 
 
【3】簡易ユガケの製作
 
《1》用意する物
 
・軍手、ハサミ、カッターナイフ
・補強の材料
テーピング、握り皮、押し手がけ、ペットボトル、ビニール下敷き(ボールペン用)。
・材料の固定
テーピング、木工用ボンド、瞬間接着剤。
 
《2》簡易ユガケの土台となる軍手の製作
 
・ユガケと同じように赤い線の部分をハサミで切り取り形を整える。
a-@a-A
・切り取った部分をテーピングで補強する。
a-Ba-C
 
・この様にユガケの形に切った軍手を用いて簡易ユガケを製作する。
 
*テーピングで切った場所を止めるときに軍手を寄せながら貼ったほうが良い。そうすることで軍手をはめた時のたるみ少なくなる。
 
 
《3》1つの補強材料での製作
弱い弓を想定し、補強素材を複数使用せず、最も簡単に作る事のできる物を考える。
 
(1)補強材料 握り皮
・親指の腹の部分にb-@の形のように切ったものを半分に折り張る。
b-@b-A
 
・握り皮を張ったらテーピングで全体を固定する。
・固定したらボンドで先ほどと同じ様に握り皮を張り合わせる。
b-Bb-C
 
・完成
b-D
 
 
(2)補強材料 押し手がけ
・弦が掛かるあたりにテーピングを3、4回巻く。
・軍手に押し手掛けをかぶせ、テーピングで軍手と押し手がけを固定する。
c-@c-A
 
・完成
c-B
 
 
(3)補強材料 ペットボトル
・ペットボトルをd-@の様に切る。
d-@d-A
・テーピングでしっかりと巻き、切ったものを腹とその反対にテーピングで固定する。
d-Bd-C
・完成
d-D
 
 
(4)補強材料 ビニール下敷き(ボールペン用)
・親指の幅に合わせて長く下敷きを切る。
e-@e-A
・親指を覆うようにし、テーピングで固定する。
e-Be-C
・余った部分を切り、弦の掛かる部分に貼る。
e-De-E
・完成
e-F
 
 
《4》問題点・改良点
・補強するときに腹の部分を固くしすぎると、弦のかかりが不安定になる。
・軍手の締め付けだけでは緩く、引分け、会のときにずれてしまう。
・帽子を作る場合、やわらかい素材よりも固い素材の方が適する。
・テーピングで固定した場合、引いているとずれてきてしまい、ベタつくので、握り皮などを張った方が良い。
・帽子を固く丈夫にする場合、溝を作り弦のかかり具合を安定させたほうが良い。
・軍手の手首部分を包帯などで巻き、ずれなくする。
 
 
《5》問題点・改良点をふまえた簡易ユガケの製作
 
(1)補強素材を組み合わせた場合
・親指に合わせて下敷きを切り、両面にテーピングで固定する。
f-@f-A
 
・先ほどと同じように今度はペットボトルを切る。
・それをまた同じように両面にテーピングで固定する。
・ここでしっかりとテーピングで固定し、補強素材がずれないようにする。
f-Bf-C
 
・次に弦をかける溝を作る。
・下敷きを図f-Dの様に切りそれを重ね合わせる。
f-Df-E
 
・作った溝をボンドで貼り付け、テーピングでしっかりと固定する。
・固定した上に帽子の大きさに切った握り皮をボンドで張る。
f-Ff-G
 
・完成
f-H
 
 
(2)補強素材を組み合わせ、さらに帽子を固くし、控を作った物
・テーピングを両面に貼る。
・次に下敷きを切ったものを親指の腹側に貼る。
g-@g-A
 
・次にペットボトルを切ったものを親指の腹側に貼る。
・反対側にはg-Cのように切ったものを貼る。
・ここでいったんテーピングを4回ほど全体に巻いて補強する。
g-Bg-C
 
・親指の長さに切ったペットボトルを巻く形で固定し。
g-Dg-E
 
・f-D要領で作った溝を付ける。
g-Fg-G
 
・控の部分には長い五角形状に切ったペットボトルを使用し、g-Cの出ている部分とつなぎ合わせる形で固定する。
・最後にテーピングで軍手と控えを固定する。
g-Hg-I
 
・完成
g-J
 
 
(3)(2)の物をさらに改良した物
・下敷き、ペットボトルをh-@のように切る。
・親指の長さに合わせて切ったペットボトルの真ん中に親指の幅に合わせて切った下敷きを貼る。
h-@h-A
 
・反対側に折り返してテーピングで全体を補強する。
・筒状にし、余っている下敷きを中に入れる。
h-Bh-C
 
・h-Cのようにしたものに、長く半分に切ったペットボトルをさらに五角形に切った物を出ている下敷き部分にくっつける。
・外側の帽子と控の繋ぎ目部分に短く切ったペットボトルを貼る。
h-Dh-E
 
・h-Eの様に切った下敷きを控の内側に貼る。
・外に出ている部分を帽子に貼り合わせh-Gの様にする。
h-Fh-G
 
・f-D要領で作った溝を付ける。
・帽子の大きさに切った握り皮をボンドで貼る。
h-Hh-I
 
・かけ紐の代わりに包帯をつける。
・完成
h-J
 
 
【4】失敗例
i-@ 溝の位置が根元過ぎたため、筒状にしたものが潰れすぎてしまう。
i-A 控部分をテーピングのみにした物で、特に控としての意味がない。
i-@i-A
 
i-B 弦の掛かる方のみ補強したため、補強していない方がずれてきてしまう。また補強部分を固くしすぎたため、弦が滑ってしまい不安定。
i-C i-Bと同じように弦の掛かる方のみ補強したため、補強していない方がずれてきてしまう。また補強した部分が大きすぎたため、引分けで中指の掛かる位置がずれてしまう。
i-Bi-C
 
i-D 溝を付けた押し手がけでは弓の強さに耐えられず、引っ張られ過ぎてしまう。
i-E テーピングの変わりにガムテープを使用した場合では、引分けで滑りそうになるため力んでしまう。
i-Di-E
 
 
【5】まとめ
 
(1)製作結果
簡易に安く作れる物として、握り皮、押し手がけ、ペットボトル、ビニール下敷きを材料として使用した。結果、握り皮かビニール下敷きを使用した物が「安く簡単に、尚且つ実用的」に作れると考える。
また複数の材料を使った場合では、控をしっかりと作った物が一番実用的だと考えられる。控を作る事によって、より実際のユガケに近い物を作る事ができた。これは実際のユガケに慣れる前段階として使用できる。今までの簡易ユガケでは、実際のユガケとの感覚の違いが大きいという問題点があったが、これにより解消できる。
強度の面では、1つの材料で作ったものは弓力の弱い弓に適しており、複数の材料を合わせたものは13キロ程度の弓力に耐えられる。特にビニール下敷きを使用することにより、違和感なく強度を高めることができた。このように柔らかく、ある程度の強度ある素材により、強度の面での問題が解消される。
またコスト面では、準備する材料を工夫し、1つを作るのに換算すると200円以内に抑えられる。コスト安はこの簡易ユガケの大きな利点である。安く抑えられれば、多く必要な場合にも対応することもできる。
 
(2)製作し終えて
今回紹介した簡易ユガケは一部であるが、簡易ユガケに求められている「安く簡単に、尚且つ実用的」という事を考えれば、今回の物はそれに適合している。学校などで多くを必要とする場合にも適している。従来の簡易ユガケでは実用性に欠けている物や、コストが掛かる物などがあったが、その問題点を解消した物ができたと考える。また簡易ユガケを生徒に作らせることにより弓道具への興味を持たせることも有益と考える。
 
 
 
 
 
 
 
 
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